※以下は、井上夢人さんのインタビュー(インタビュアーは大森望さん)をスタッフの冴西理央がテープから起こしたものです。
はじめまして、井上です。(以下井)
大森です。(以下大)
大:(e-NOVELSの)専属ウェブマスター兼、デザイナー兼、代表取締役…
井:いや、代表は多分笠井潔です(笑)一番威張ってるし、年もとってるし(笑)
大:笠井さんものすごく燃えてますよね。笠井さんのスキーの次の趣味はe-NOVELS、みたいな(笑)
井:今足痛めて腫れちゃったから、e-NOVELS一本。
大:今年はスキーに何本行ったか、のかわりに、何人の作家をe-NOVELSに勧誘したかって、水を得た魚のように嬉々としてるよね。誰を入れようとか勝手に決めてるし。山田正紀なんてハルキ文庫にあんなにあったってすぐに絶版になっちゃうだろうしとか(笑)
井:山田正紀さんは、4月ぐらいから書き下ろしのSF評論を連載します。初めて書くんだって。「神獣聖戦」の完全版を載せる予定です。あと僕がスカウトしたのは皆川博子さん。ちょっと先になりますけど、昔だされた短編集「あの紫は」をpdf化してe-NOVELSに置こうと。
これから参加するのは、西澤保彦くん。それから、やっぱり4月ぐらいから我孫子武丸さんが書き下ろし連載が始まります。
大:このうえまだ?エッセイを9999回書くのみならず。
井:一番最初だからまあじゃあ君ねと。
大:今もエッセイは週一なんだから、小説は毎日ぐらいじゃないとお客さん納得しないんじゃない(笑)
井:一番心配なのは締め切りを守ってくれるかということ。
大:ウロボロスのなんとかってタイトルじゃないんでしょ?(笑)
井:あ、タイトルきいてないや。週刊アスキーと提携するんだけど、編集部にメールで今日最初4回分が入ったらしいから、4回でとまらないといいなーと(笑)
その我孫子君の連載が3ヶ月続くんだけど、そのあと加納朋子、笠井潔、宮部みゆきと続きます。
井:週刊誌と同じで15、6枚の感じだから3ヶ月180枚。
大:中編ぐらいですね。
井:一番最初はちょっとひいたんですよ。週刊アスキーってパソコン誌じゃないですか。いいのかなーと思ったら、いいですいいです、って。まあいいっていうなら使っちゃおうということでやるんですけど。だいたいねえ、アスキー編集長はいい加減な人で、さっきも新宿で話してたんだけど、「じゃあ、いっそのこと5、6編のせよう」とか言ってて。パソコン誌じゃないじゃん(笑)
大:週刊小説より小説の量が多い(笑)
井:もう一つ、本当はいわない方がいいんだけど、僕自身の連載をやろうと思っていて、いつからということは言えないけれど(笑)
大:99人が終わってから?
井:それが終わる前に。
大:999人の始発列車とか(笑)
井:嫌だ。絶対嫌だ(笑)
大:脱線する話とかどうですか?(笑)
井:もう最初から脱線したいんだよね(笑)もう、あれも4年以上たってる?4年以上たってて今11分でしょ?その前が3、4分…まだ20分いってない?
大:世界一遅い地下鉄(笑)
井:なめくじのほうがよっぽど早い。(笑)
大:壊れた車でももうちょっと進みそう(笑)
井:時々休載が入るんですよ。病欠ということで。僕ぴんぴんしてたんですけど。まあそういうこともあるよと…(笑)
大:e-NOVELSのサイト見たことない人はどのくらい?(会場に挙手を促す)…1割もいないぐらいですね。
井:あとで名前きいとく(笑)
大:じゃあ、Web Moneyで買ったことある人。3人か。3%ぐらい。
井:いやすごいすごい。
大:100人いれば3人は買う。
井:そしたらすごいよね。
大:100万人いれば3万人買う。
井:素晴らしい。
大:100万人に見せればね。1000万人に見せれば30万ぐらい(笑)でもパソコン持ってる人ってもう1000万どころじゃないでしょう。
井:年間7、800万ずつ増えてますからね。
大:ドリキャスじゃ買えないけど。
井:PS2でも買えない。その辺が課題だね。ちかじか、iモードは対応しようと思っている。
大:通勤電車で我孫子武丸のエッセイが読める!(笑)
井:うん、ショートショートとかがね、読めるようにしたい。
大:光文社はザウルスと提携して、ザウルス用に整形したファイルを置いてたりしますからね。
井:ただ、テキスト(ファイル形式)には反対なんですけどね。
大:そうなんですか?
井:推理作家協会には、そういうことはできるだけやめてほしいと伝えてあるんですけど。
大:僕はテキストファイル派。
井:いや、わかるんですよ。視覚障害の方の為の音声出力はテキスト形式の方が望ましい。pdfやT-timeはまだ音声変換できないから。ただそれを理由に「だからテキストなんだ」というのは、われわれ著作権で商売をしている人間には乱暴な気がする。
大:それはコピーとか改編の問題ですか?
井:いや、web上に載せたりする電子媒体である以上、コピーは前提としなくちゃいけないけど、コピーしても著作権表示がちゃんと残るようにしなくちゃいけない。それから、電子署名で何か起こったときに―もちろんほとんどは何も起こらないし、起こらなければそれに越したことはないけど、これが誰の著作かわかるようにセキュリティをたてておかないと、商品にはならない。
大:本だってコピーはできるけど?
井:でも、面倒くさいでしょう?電子本はそこが違う。コピーがとても簡単で、エディタに読み込めば、どんなことも簡単にできてしまう。作者名を変えたり、キャラクターの名前を全部変換することだって出来てしまう。それを別なものとして発表されたらこちらは打つ手がない。やっぱり面倒くささは必要だと思う。
大:ファイル形式は今はpdfが主流になってるみたいですけど。
井:pdfになるのか、またボイジャーのエキスパンドとかT-timeなどになるのか、まだはっきり見えてないですけども、それぞれの次期バージョンが普及すると思ってます。
T-timeとpdfで、pdfを選んだのは、外字フォントを埋めることが出来るところ。あちこちでいわれてることではありますけども、外字を表示することはネットではなかなか難しい。たとえば漢字コードの問題で、表示できない字が結構ある。たとえば掴むという字とか変になってますよね。(なってます(笑))気持ち悪いから正しい字で書いてくれという声には応えられなくちゃいけない。だとすると、外字を埋め込めるドキュメントフォーマットが望ましいと。
それともう一つは、webであちこちサイトを回っていて、htmlだと自分の好きなように画面や文字の大きさを変えたりリンクの色を変えたりできるのは、一つの利点ではあるけど、商品としてはまずいと我々は考えてる。文字の大きさは変えてかまわないしpdfでも出来るけど、たとえば京極夏彦は、紙面レイアウトを全部自分で決める。それ以外では見てほしくないから、文庫化するときはまたレイアウトを決め直すという大変な作業をやってるわけ。
小説は中身であるし、ストーリーであるし、お話なんだけど、これからはそれだけではいけないんじゃないかという考えもだんだん登場している。それに応えられる形式が必要。Acrobat
Reader4.0からは対応している。これだったらやれるかなと。小説家たちを説得できる。そう思ってpdfになったんだけどね。
大:実際3.0までだと、動作が重くて、T-timeの方が良かったりするしね。
井:そう、T-timeの方が好きなんだけどね。T-timeはしおりがちゃんとしている。pdfで一番困るのは、T-timeは前に読んだところで開ける。そういう感覚はほしいのに、pdfは必ず最初に戻っちゃう。
今度ボイジャーの人に会うんだけど、是非ともお願いしたいのは、フォントが埋め込めるにしてほしいってことと、しおりの機能。
大:でもファイルが重くなるでしょ?
井:サイズは、小さくするように努力はするけど、ある程度勘弁してちょうだい(笑)。将来に向かっては、通信は早くなる方向に進んでいるし、ストリーミング技術とか映像配信なども行われてきて、スピードが要求されつつあるから、ある程度大きいサイズであることは仕方がない…といっちゃあいけないんだけど、どこかで押さえなければいけない。音楽でのMP3みたいな圧縮技術が進んでいくだろうしね。
ある方向ではコンパクトに向かうだろうし、ある方向ではより精密な文字、精密な絵が表示できるようになる。そして作り手の意図、考えが正確に伝わる方向に進む。もちろんこの先ずっとAdobeのpdfに頼ろうと思っているわけではない。
大:今だいたい、長編でも1メガぐらい?フォントがサイズをくうのであって、枚数が増えてもそんなには変わらないよね。
井:そう、岡嶋の『そして扉が閉ざされた』をpdfで置いてみたんですね。それが2メガいかなかったんですよ。でも岡嶋の『熱い砂』の連載は写真がたくさん入っててそれもカラー写真なもんだから、やたら重くなっちゃって、たかだか15枚ぐらいなのにサイズが変わらない。今一番サイズをくってるのは、絵です。
会社とか学校とか、自分のお金使わなくていいところから落としてる人も多いと思うんですけど、ここに罠がある。WIN版とMAC版は別料金なんだよね。ダウンロード失敗しても、1週間以内なら再ダウンロードできるんだけど、家がMACで会社がWINだとして、家で失敗して会社で落とそうとすると、もう一度お金がかかっちゃう。こちらは大歓迎ですけど(笑)
大:でも、WINでMAC版落としても読めないだけでしょ?そのままフロッピーで持って帰れば
井:それを言ってしまうと教えてしまうことになる(笑)
大:熱心なファンはMAC版もWIN版も買わないと(笑)
井:でも、開けば同じですからね。同じpdfが出てくるだけ(笑)
大:決済の話ですが、Web Moneyを買ったことがある人はいますか?4人。Web
Moneyを買ったことがあるのに、e-NOVELSを買ったことがないのは、一人だけですね(笑)喜国さんだけは、買ってないと(笑)
喜国さん:中田のページがねえ、5000円ぴったりで、使い切っちゃった(笑)
井:さっきフクさんに渡したんですけど、こういうやつです(とWeb Moneyのカードを提示)。
(MYSCONの景品になりました)
大:一番買いやすいのははサンクス・サークルK、ソフマップとかでも売っているらしい。ドリキャス売ってるところなら扱っているらしいです。
井:そう、中田のサイトのおかげでWeb Moneyが普及したのはいいなー。
大:中田の小説とかどうですか。笠井さんから村上龍を通じて、中田の日記を載せる…もう、大変ですよ。サーバダウンしたりして(笑)
井:…それ、手だなあ(笑)
大:笠井―村上ルートはあるでしょう。あと馳星周をしばき倒して中田に紹介させてもいいし。
…言うと、笠井さん本気で考えそうですね(笑)
井:僕自身がサッカーは全然わからないけど、中田は知ってるから。Web Moneyが流通して、ちょっとでもこっちに流れてくれれば。なんだかわからないけど、中田を応援しています。e-NOVELSは中田を応援しています(笑)
大:(Web Moneyを提示して)この銀はがしをすると、番号が出てきて、これで全ての取引を管理するという。決済はWeb
Moneyって会社のサイトでやるようになってるんですけど。どこで買い物しても同じシステムで。番号がめちゃくちゃたくさんあるんですよね。
井:そう、わかりにくい。打ち込みにくい番号とかあるみたいで。
大:まあ、一回使っちゃえばコピー&ペーストでもいいですし。僕はもう、「うぇぶまねー」で辞書登録してます。他にもMP3のデータとかいろいろ買えます。
井:あと1ヶ月ぐらいはかかるんですが、今クレジット決済も準備を進めている段階です。ただクレジットに関しては、カード番号を打ち込むのを嫌う人もいますし、そういう人はWeb
Moneyにすれば損はしない。危険は少ないです。
大:あとはソネットとかニフティとかの会員登録をして決済とか…
井:ちょっとばらしますと、ソネットにお願いしてまして、ソネット会員の方は何の手続きも踏まずにで払えるようになる。
大:ソネットはプロバイダとして使ってなくてもショッピング会員になれますしね。SFオンラインなんかはこれを使っていて、一回使っちゃえばかなり便利です。Web
Moneyの最大の問題は、全部オンラインじゃできないってことで、一度はコンビニに足を運ばなくちゃいけない。365日家にいる人は買えないと(笑)
井:あと声があるのは、海外。移住した日本の方とか、我々以上に日本語に飢えてる。向こうで手に入れようとすると効果だし。インターネットなら世界中どこでも同じ料金で、これはいいやと思ったらWeb
Moneyでがっくりした、というメールが来たりします。
大:Web Moneyのオンライン通販ってのもあるけどね。(笑)
井:でもそれだと若干高くなる。
大:とにかくお金払うから番号送ってくれって感じですけどね。カード自体には価値はないし。でもすごいですよね、この番号で1000万人ぐらい買っても全部管理してるって。
井:そのはずですね。
でたらめ入れても、駄目なんですよね。
井:そのはずです…けど知りません(笑)まあ、誰かが100万ぐらいもらっても損をするのはWeb
Moneyですから(笑)
大:今、オンラインの小説を売るっていうのは、3年ぐらい前からいろんなところでやってますね。一番早いのがパピレスで、光文社も光文社電子書店、最近e-booksとかもあるし。その中でe-NOVELSがやりたいことは?
井:つまり作家が、自分が書いた作品を、直接読者に届けるってことです。小説ってのは書き手と読み手がいて、あとは付帯設備なんだよね。
大:出版社はいらないと?(笑)
井:いや、出版社がいらないとは僕は思ってない。流通がいらない。
出版社、流通、本屋さんとあって、本屋さんってのは実際に手にする窓口になるし、出版社は本を作ってくれるところ。でもその間に流通ってのが入ってて、しかも日本ではまだ再版ってのが残ってて、もうすぐなくなるかもしれないけど。
ほしい本が見つからない。新刊ならまだしも、一年前の本はおいてない。仕方なく注文すると、1週間ぐらいたってから電話がかかってきて「すいません品切れです」ってことになる。また本屋さん側で、店に20冊置きたいからと注文したくても5冊しか入荷できない。われわれ書き手にしてみれば、売らないように売らないようにしているとしか思えない。
出版社にしても、返本ってのがあるからリスクを考えて、なかなか増刷できない。
大:オルファクトグラムもまだ増刷しない。
井:まだ増刷しない(笑)どういうことだ!で、担当の編集者に聞くと「もうほとんどはけてます」なら、刷れや!(笑)いや営業がうんといわなくて…というのが毎回繰り返される。
で、ようやく増刷した頃には書評も何も終わっていてチャンスを逸してしまう。書評などで最初に読んでくれる人たちが読んで、あれはどーのこーの話題に上ってる頃には大体、本がなくなってる。うまいシステムになってるわけ(笑)
僕たちは小説を書いて、たくさんの人に読んでもらいたい。売れればお金入るから嬉しいってこともあるけど、それ以上に、読んでもらった、ってことが嬉しいことだし、その小説を読んで、リアクションを起こしてもらうのってのはとても嬉しいことで。たとえけなされるとしてもね。なんらかの行動を喚起したってことはすごく名誉なことであると。だからたくさんの人に読んでほしいんだけど、今の出版の状況をみていると厳しい状態で、どれくらい持つんだろうと。当然出版社の人間たちは危機感を持っているかと思うと、「タイタニック」で最後までいつまでも楽器を弾いてるひとたちがいたじゃないですか(笑)ああいう感じなんです。もう半分沈んでるにもかかわらず、バイオリンなんか弾いてる。そういう風にしか思えないし、実際聞いてみると、大手の人ほど「まあ、つぶれないだろう。給料は出るだろう」と考えている。危機感がない。
大:バックリストを活用していないよね。角川なんか、今まで出してきたタイトルを合わせると何万とかあるのに、バックリストのありがたみをまったくわかってない。
井:使い捨て…とまでは言わないけれど、今ほとんどの書籍が、単行本であれ文庫であれ、ほとんど雑誌扱い。書店の棚が限られているという事もあるけど、ほとんど月一で変わっていってしまう。前のものを追い出さなければ新しいのがおけないという状況になっている。
ジャンル専門の本屋さんがもっとあれば,ある本屋にいけば歴史物はないけど本格ミステリはいっぱい置いてる、または恋愛小説はいっぱい置いてる…となるんだけど、実際はそうじゃなくてデパートになっちゃう。ある意味では致し方ないところもあるんだけど。
だとすれば電子本についてもっと考えたらいいんじゃないか、と僕は出版社に言ってるんだけど。「ああ、そうですね」とはみんな言うんだよね。言うんだけど、それは自分の話じゃないなとみんな思ってる。誰かがやると思ってる。そういうのは白髪混じりの編集者に言ってもしょうがないなと思うから、若めの方に言うんだけど、若い人も意識は薄い。そうするともう、出版社にまかせてはおけないんじゃないかという感じになってきた。
それから、各社、電子出版について考え始めてはいるんだけど、それがほとんど絶版対策。絶版対策はいいんですよ。ただその絶版対策の意味が、この本がいい本だからずっと残そう,ではなくて、他の会社にとられないため、うつされないため。とにかく売れなくてもいいから電子本の形で自分のところに置いておこう。要するに飼い殺しにしようという考え方がほとんどで、僕なんかはそういうのたまらないわけ。そういうことを続けていると、「webで売っている小説、ああそうか」になってしまう。webに置いてある電子本が活字本よりランクが下であると思われるのはたまらない。だとすれば,「これを読んでください」と言える作品を作家の手で売っていく必要があるんじゃないかということで、e-NOVELSを始めたんですけどね。
大:問題は数が増えてきたときで、今までは出版社や書店が宣伝し、読者を立ち止まらせる努力をしてきたわけですよね。作家の人が直接売る、となるとそれは?しかも寄り合い所帯なわけで。
井:ほんとはね、一人一人が自分で売ればいいんですよ。ただそうすると、ノウハウをもっている持っている人間と持っていない人間とで差が出てくる。それから、読者が読みたいと思っている作家の本が出ない。そういう人は忙しくてそういうことなかなかできないからね。だから、僕みたいにしょっちゅうパソコンいじっているとか、仕事よりそっちの方が面白いとかそういう人間は別だけど。だいたい忙しい人ってのはパソコンいじってる暇なんてないですよね。作品を商品化して売る、なんてことはできない。だから、僕みたいな人間が技術を公開して、こうすればこういうことができるよ、って道を開こうと。
また、作家がある程度集まってくれば、集客力が生まれる。あそこに行けば小説があるってね。今はまだイベントの一つにしか見えないかもしれないけれど、かなりの作品が集まってくれば、e-NOVELSにいって見つけようという動きももっと出てくるかもしれない。そうなれば、そこで売ろうという作家も集まってくる。つまり、場を作ろうという。ある意味では互助会団体。
Web Moneyもそうですけど、電子決済を個人で話をつけてやるのは大変なことなんですよ。作家一人一人がそれをやるとリミットを越えてしまう。だから、鋳型はありますので、出した作品を持ってきて下さい、という場を作りたいんです。
大:e-booksもそうですよね。手数料4割、印税6割で,ファイルを持ってくれば売ってあげますよという。ただこの形だと、クオリティとか信頼性とか集客力が問題になってくる。
井:e-booksの話は直接やっている人に聞きましたけど、まあ、とん挫すると思います(笑)
大:まあ、玉石混合ですもんね。その点e-NOVELSでは、結局井上さんや笠井さんあたりが編集や営業をやってるわけじゃないですか。この体制でどこまでいけるのかっていう。
井:どこまでも…はいけないですよね、現実問題今僕は、自分の作品が書けなくなっているという(笑)俺は一体なんだろうかと、まるで自分の小説の主人公みたいに、自分のアイデンティティを探さなきゃいけなくなってるんで、はやいところ、そこらへんのノウハウをシステムだけきちっと作って、それを(誰かに)渡してやってもらおう、という風には思っています。
クオリティの問題だけど、それを判断するのは作家自身で、それを評価するのは読者である。それをきちんとわきまえてやろうと思ってます。
読者の方たちが読みたいものを選べる場所,そして作家が書きたいときに書きたいものを書いて「これを読んでくれ」という形で出せる場所。その両方が成り立てばと。e-NOVELSでも読者の声を拾ったり、アンケートとったりしてるわけですけど、スタッフでなるべく目を通して、どういう風に読者が望んでいるのかをみながらやっていきたいと思っています。
大:店に来てくれてるお客さんは随分たくさんいるみたいですから。買ってる人は3人ですけど(笑)
井:まあ、それはいいんですよ。書店だって…
大:でも書店は100人来たら30人ぐらいは買いますよ(笑)
立ち読みの客が多くて困る!ってはたきもっていかないと。e-NOVELSにもそういうおばさんとかいるといいですね(笑)
井:(e-NOVELSでの)立ち読みは、エッセイはできるんだけど、肝心の小説はできないから、立ち読みに変わるものを模索しているところ。評論家の方たちなどにもご協力をお願いして、実際においている小説についての情報を出してもらうこともこの先考えています。
大:あと、慣れてない人とかはちょっと敷居が高いみたいだけど、Web Moneyで払うのはとても簡単だし、Acrobat
Readerだけ用意してもらえれば、非常にきれいに読みやすい形ですので。あんまり抵抗はないですよ。今日来た人は是非、楽しんでみて下さい。
井:あそこにただのやつも3本、僕のが2本と貫井さんのが1本ありますので…と完全にPRモードに入ってますが(笑)、一度とにかくみて下さい。みてその上で「やっぱ活字の方がいいや」…って大半の人は思うかもしれないんだけれど、ただ、こういう形もあるのだということを一度体験してみてください。
質問コーナー。
Q(森英俊さん):版権のあるものについては難しいと思うんですけど、翻訳関係のものは考えてますか?
井:正直言ってそこまで頭が回ってないですね。
大:逆にあれですよね、死後50年たってるものなら,翻訳者の方からe-NOVELSに売り込むとか。
井:そういうのもありますし、amazon.comとか向こうのe-booksとかと手を組むとか、逆にe-NOVELSの作品を海外に出すとか、そういうことも考えられると思います。
今は足元を固めるのにせいいっぱいなので、軌道にのってきた段階で考えることかなと思ってます。
せっかくだからということで、ここで『オルファクトグラム』を買った人、読んだ人に挙手をお願いする。
(6割ぐらい?半分は超えていたような。)
大:すごいですね。
井:うわー!ありがとうございます!
大:これが人口比で…(笑)
井:いや、今血の気が引いたんです。もしかしたら僕はベストセラーを書いたんじゃないかと(笑)
今までベストセラーというのを書いたことがないんですよね。だから今みたいな割合で読んでる人がいるのを目撃したのは始めてです。感激でうるうるしています(笑)
大:どうして増刷しないんでしょうね。流通システムの…
井:編集の人いませんか(笑)いや、ほんとにありがとうございます。
Q(蔓葉信博さん):そもそも匂いの話を書こうとしたきっかけは?
井:前に集英社から出した「あくむ」という短編集で、僕の企画で五感を使ったホラーを書いてやろうと思ったんですが、視覚、聴覚…ときて,嗅覚だけが書けなかった。小説すばるに書いていたので否応なしに締め切りが来てしまって,締め切りは怖くないんですけど、編集者の顔が怖い(笑)電話がなるとびくーってするわけですね。こりゃやっぱり何か書かざるをえないということで自分をもごまかして,第六感の方に振っちゃったんです。そういうわけで、嗅覚だけが僕の中で宿題となって残ってしまったんです。
そのとき僕自身、書けなかったということがショックで。何故嗅覚の話が書けなかったのか。要するに言葉がなかったんです。匂いに関する。匂いの世界を表す言葉がこれだけ欠乏しているということに唖然として、なんとかこれをやっつけないと借りを返せないという気持ちがあった。
それから花の本とか香りの本とかアロマテラピーとかなんだとか本を買い集めて、勉強を始めました。嗅覚とは何だとかいう難しい本も読んだりしまして、それで知識を仕入れながら、とにかく何か書けないだろうかと考えて…要するに、宿題をようやく返したというところです。
大:視覚にするってのはいつ思いついたんですか。
井:これはまた違う時で、『パワーオフ』を書いてたときなんですけど、進化論にくっつけたフランケンシュタインものを書こうというときだった。進化論の参考書として,リチャード・ドーキンスの『ブラインド・ウォッチメーカー』という本を読んで大変面白かったんですが、あ、この本は読んでない人がいたら是非読んでみて下さい。この中に、コウモリの話が出てくる。コウモリというのはご存じのように超音波を出してそれを耳で受けて、外界を認識している。僕が感激したのは、飛んでいる虫を、その超音波のソナーで捉えることが出来る。これはもう、見ているとしかいいようがない。つまりコウモリは音で、外界をみている。だとすると嗅覚でみる…本当はここ、ものすごく嘘があるんだけど、その辺はお話だとしておいて、嗅覚を使って「見る」人間がいたらどうなるか…というところは、ドーキンスさんからいただきました。
大:まだいくらでも話は続きそうですが,…あ,浅暮さんが何かいいたそうですね(笑)
浅暮さん:嗅覚以外の五感で長編を書くご予定は?(笑)
井:えーっと(笑)
大:味覚で世界を見る人がいたら大変そうですね(笑)
井:ちょっと気持ち悪いことになりそう(笑)いや、今のところ考えておりません。
一つ書いてしまうと、僕はお腹いっぱいになってしまうたちなので、その類のことはしばらくは頭に登ってこないのが常ですから、嗅覚を書いてそのあと聴覚にいくというようなことはないと思います。
大:浅暮さん、次のがぶつからんようにと探ってるんですか?「俺は味覚で書こう」と思ってるとか(笑)
浅暮:一応念のために聞いておこうと(笑)
本日はありがとうございました!(拍手)